音楽理論の本を読んだ(デイヴ・スチュワートのジャズ嫌い)
音楽をよく聞くし楽器をやっているわりにはまったく理論などには疎いのがなんとなくコンプレックスで、入門書の類を買ってみた。
- 作者: デイブスチュワート,藤井美保
- 出版社/メーカー: リットーミュージック
- 発売日: 2006/01/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Twitterでたまたま見かけたので買ってみた。なんとなく「参考書感」があって読む気が失せたのだが、これは新装版で、もともとは
こんな感じの愉快な表紙であった。この絵は新装版のなかにもけっこう登場する。本人に似ているのかはよくわからないが……。
この著者のデイヴ・スチュワートはそもそもミュージシャンとしても確固たるキャリアがあって、いわゆるカンタベリー・ロックにおいて重要な人物だ。
カンタベリー・ロックといえばソフト・マシーンとか、キャラヴァンとかヘンリー・カウとかスラップ・ハッピーとか、とにかくプログレ/フュージョンの文脈でも特にジャズとの接点が大きく前衛的な分野と言えると思う。一言でいうと底なし沼という感じのジャンルで、僕はそこまで深追いできていないのだが、とにかくスチュワートはそこで活躍していた。
キーボーディストとしてゴングやナショナル・ヘルスに在籍していたとか、比較的有名なところではビル・ブルーフォードとやっていた人といえばその筋の人にはわかっていただけるだろう。また、80年代にはポップ方面にも創作の幅を広げているようだ。
同姓同名のギタリストもいるようだが、そちらはよくわからない。
内容はメジャー/マイナーといった基礎的なコードの解説から、ロック/ポップスにおけるコード進行の発展の簡素な歴史、応用的なコードワークの説明、さらにリズムやBPMの解説、簡素なMIDIの扱い方、インプロヴィゼーションなどまで及んでいて、単なる理論書というよりはかなり実践向きである。
個人的には、スチュワート本人の好き嫌いや作曲の経験を全編にわたって語ってくれるので読みやすく、すぐに読めてしまった。理解するというよりはとりあえず使ってみよう、というユーザーフレンドリーさが気に入った部分だろうか。
それに加え、英国人特有なのか皮肉やユーモア交じりに書かれているので飽きずに読める。キーボーディストとギタリストの両方に向けてコードが書いているのも親切だろう。
…というのが概要で、それはともかく、僕が本書で特に面白いのは、スチュワートのジャズ嫌いである。
ここから第五楽章にかけて、基本的なトライアドから発展させた利用価値の高いコードとコード・ボイシングについて語っていきたいと思います。よく出てくるようなジャズ・クリシェにはタッチしないので安心してくれたまえ。
陳腐で薄っぺらで、洗練されてるようでクサいジャズ13thの世界を抜け出る前に、もうひとつ関係するコードを紹介しなければなりません。これなら私の耳にも心地よく響きます。
(本書より)
先ほど言ったようにカンタベリー・ロックというのは比較的ジャズとの関係が密接なジャンルなのだが、意外にも彼にとってジャズは手あかのついた退屈な音楽、ということなのだろう(当然、ある種の外連味ではあるのだろうけど)。
だからこそ彼はよりプログレッシブな方面に舵を切っていたのかもしれない。しばしばジャズ好きからは中途半端と見なされるプログレだが、一筋縄ではいかないのであろう。
さて、スチュワートのひねくれっぷりがよく出ていると思うのだが、本書で基礎となるのはsus4、sus2、add4、add2といったコードの説明である。
スチュワートは普通の音楽理論書やギター入門書で説明されるであろうセブンスやナインスに関してはそこまで深追いしない。彼の発想はむしろ、そういったコードのなかにいかに四度や二度の音を挟み込むか、どのようにしてポップかつ奇抜なコード進行にするか、みたいな方向に向かっている。
それゆえ本書は音楽理論と言えばクラシックかジャズ、という定式に対するアンチテーゼにもなっている。
途中で「冒険心のあるコード進行を取り入れているバンド」として、XTCやレディオヘッドを挙げているのも興味深い。
どうもとことん「クリシェ」が嫌いな男のようである。
Bruford — "Sample and Hold" Live (1979)
(ブルーフォードのライブ。スチュワートがキーボードを弾いている。何度見てもバンドのメンツすげえな)
余談だが、同時に菊池成孔のジャズ講義の本を読んでいる。菊池もまた軽妙な語り口で、内容は読みやすいのだが、どうも嫌味な印象が残る。同じく軽妙な語り口でもどうしてこうも口当たりが変わるのだろうか。
英国人のセンスなのかもしれない。