大津波では救いがたい

思考の総括と分解

P-MODEL"BOAT"楽曲分析(平沢進の開き直り)

こんにちは。航路通です。

なんとなく楽曲について詳細な分析をするような記事を書きたくなったので、地味にはなりますが書いていきます。今回分析するのはP-MODELBOAT”。

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まあどういうバンドなのかを知らない場合は適当に検索してみて下さい。

ちなみにこのブログのタイトルはP-MODELの曲(”Cruel Sea”)からとっています。

 

『SCUBA』以前と以後のP-MODEL

一般的に「テクノ・ポップ」とか呼ばれているP-MODEL平沢進ですが、初期のテクノポップ+パンクな音楽性から移行していくにつれてキッチュな音や親しみやすいフレーズはそぎ落とされ、重く暗い実験的なバンドになっていきました。

まあそもそも初期から、単純なパンク・ロックとかテクノ・ポップに回収されえないバンドだったとは思いますが。今、「ヒラサワ」さんがテクノの巨匠だのと呼ばれているのは、解凍期にもう一度(開き直って、ソフト・バレエのパロディみたいな感じの)テクノをやったからだと思っています。

彼の根底にあるのは態度というか趣味としてのプログレなんですよね。すくなくとも80年代のあいだ、彼にとってはパンクもテクノもプログレ(実験)の一種だったはずです。

中期P-MODELは(とくに『パースペクティヴ』と『アナザー・ゲーム』は)テクノの軽さとは真逆の変なことばっかりやっていたバンドでした。

このあたりを聞いてみてください:

P-MODEL: のこりギリギリ (Nokori Giri-Giri) - YouTube

 

単純に楽曲の構成やスケールも変ですし、それ以上に、音ひとつずつの反響そのものが問題になっているんですね。彼らにとっては「録音」自体がひとつの実験だった。

しかし、平沢進は『SCUBA』(1984)というアルバム(これはP-MODELというより平沢進のソロの習作のようなもので、ほとんど平沢進一人で作った番外編という位置づけです)で、その暗く変なロックから解放されたかのような明るく「開き直った」楽曲を多く作ります。そのうちのひとつが、ここでとりあげる”BOAT”です。

 

偏執的なリズムの打ち込み

左右に振られたよくわかんないサンプリング音源のループから始まる”BOAT”は、それまで「バンドサウンドでいかに実験的なことをやるか」ということを考えていた思考から大きくズレたことをやっています。開き直ったような明るい曲なわけですが、平沢進の「童謡好き」「メジャースケール好き」が初めて出た曲ではないでしょうか(”I AM ONLY YOUR MODEL”なんかもありましたが、あれはホールトーン趣味のほうに入れたほうがいいと思います)

 

打ち込みというものがまだほとんど方法として確立されていない時代ですので、リズムの音が非常にチープなのが印象的ですね。

一方で、よく聞くと、チープながら、非常に細かく多く音を連ねていることがわかります。また反響や位相にもかなり気を遣っている。とくに印象的なのは特にアクセントなくずっと一定で鳴り続けているシンバルの音と強烈なスネアの音、間奏部のリヴァーヴですね。

その偏執狂的な打ち込みへのこだわりはたとえば”七節男”(

https://www.youtube.com/watch?v=YlLV7o6lmHA)なんかでも聞けます。

これは凍結期の打ち込みの重厚さとはまた違うんですよね。機材の新しさという意味でも発想という意味でもそうですが、チープな音を偏執的に重ねるという手法は『カルカドル』や『ワン・パターン』でも多用されていきます。

 

開き直ったようなメジャースケール

楽曲はAメジャー一発です。簡単に言うと「ドレミファソラシ」を、「ラ」を起点にして配置し直した音階(ラ、シ、ド#、レ、ミ、ファ#、ソ#)。この音しかこの曲では鳴っておりません。

歌の裏のコード進行は、A→Bm→Eの繰り返しですが、ベースはずっと五度(ラに対するミの関係)を行ったり来たりしています。マーチか行進曲のつもりなのかわかりませんが、ベースがシンバルの拍に対して半分の速度で四拍子のノリが出ており、このシンプルさが心地いいです。

実際にこの曲のベースを弾いてみましたが、基本的に同じフレットの中で弦を行ったり来たりして音を鳴らすだけなので、運指がとてつもなく簡単です。ベース初心者にまず練習させたいお手軽さです。

このベースの4拍子ノリというのはおそらく童謡なんかであるようなやり方なんですね。少なくともロックの発想で出てくるものではなくて、この曲には平沢進のすごい根源的なセンスが出てきてると思うんです。

複雑なコードワークや転調は一切なく、とくに各楽器が目立つこともなく、最初から最後まで同じことを繰り返しているだけながら、平沢進の歌が乗ることでポップな歌モノとして成立しているのが驚く部分です。明らかに手癖で作られたような曲なんですが、この盛り上がりが出せるのはメロディーメイカーとして平沢進が優れている証左でしょう。

逆に言うとこれだけシンプルな構成で歌モノとして成立させているのが平沢進の職人的な「開き直り」なわけです。歌い方も何だかやけくそですが、よく合っていると思います(僕はこの歌い方の平沢進が一番好きです)。

 

そのあと

ここでサンプリングや打ち込みを解禁した平沢進は、『カルカドル』や『ワン・パターン』でそれまでと違った「明るくも実験的な」曲作りへと邁進していき、ここでは横川理彦や中野照夫などの多彩なセンスの持ち主のプレーヤーの参加もあって他にはない(ジャンル分け不能な)不可思議ひねくれポップスへと着手していくことになります。

モノトーンの世界から極彩色の世界へと一気に飛び立つわけですが、相変わらず録音=実験というニュアンスは残されているように思います。

 

 

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このへん聞いていただけるとわかるかもしれません。

 結果的に「ゴチャゴチャしてるのにスカスカ」な、パラノイアックな音像になる。

 

なんというか、打ち込みって「楽」だからやるというか、今までプレーヤーがやっていたものをマシンにやらせるわけだから普通よりミニマルなものになっていくんですけど、彼らは(ていうかこの時期のバンドは)そのミニマルさを「迂回路」としてワザとやるんですよね。これは『BGM』や『テクノデリック』あたりのYMOとかとも通じてると思います。平沢進YMO嫌いっぽいですが。

当然、打ち込みを単純にサボりで使ってるバンドなんてほとんどなくて、そのミニマリズムを社会批評として使ってたのが70年代後半~80年代前半の最初期のP-MODELとかプラスティックスとかヒカシューとかだったと思います(「すべてはコピー」なわけですから…)。

でも、ここでの打ち込みサウンドの意味って初期のテクノ・ポップがドラムをマシンでやってたのとは意味が違うと思います。このチープさは多分実験だったのだろうと。

そう考えた時にクラフトワークが偉大になってくるんですが。僕はこのチープさと「間違えた」感じが大好きですね。

 

さて、歌詞についても書こうかと思ったんですが、話が広がりすぎてまとまりがなくなりそうなのでとりあえず楽曲分析だけということで、今日はここらへんで。

 

ちなみに平沢進のソロ曲”コヨーテ”はこの”BOAT”の拡大解釈というか、ほぼ同じコード進行でメロディを組み替えて発展させたものになっており、聴き比べると面白いですよ。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm18725825

ニコニコ動画にしかなかったですが。

 

では。